Wispecsの特徴の説明
Wispecsの特徴の説明
接着性
接着性
Wispecsの開発は、膨潤性のPAA/PVP複合体の探求から始まりました。
PAAは皮膚や粘膜に接着性のある合成高分子材料として古くから知られており、明確な接着のメカニズムは解明されていませんが、PAAの持つカルボキシル基が関与していると考えられています。
通常の溶液混合で得られるPAA/PVP複合体はほとんどのカルボキシル基が水素結合によって消費されているために、生体接着性は示しませんが、固/液界面で形成した膨潤性のPAA/PVP Wispecsゲルでは、PAAとPVPの二つの高分子が部分的に結合し、非結合状態のカルボキシル基が多く残っているため、生体組織への接着性を維持しています。
さらに、皮膚や粘膜だけでなく金属や特定のプラスチック材料にも強く接着することが確認されています。また、Wispecsの接着力は、水分量に大きく依存するため、添加する水分の量で接着性をon-offすることも可能です。
生体内分解性
生体内分解性
PAA/PVP Wispecsゲルの場合、PAA分子とPVP分子の間の水素結合には、カルボキシル基の水素原子が関与しています。そのため、中性~アルカリ性条件下で両ポリマーの溶液同士を混合しても、カルボキシル基が中和されていて水素原子がないために複合体は形成されません。
しかし、乾燥したPAA/PVP Wispecsに血液、唾液、その他の体液を加えると、中性の液を加えたにもかかわらず、複合体は柔軟なハイドロゲルを形成します。これは、この時点では吸収した液が少量であるため、カルボキシル基の多くは中和されずに残っており、ゲルの内部が弱酸性に保たれてPAAとPVPが結合した状態を維持しているためです。
一方、PAA/PVP Wispecsゲルを大量の中性緩衝液中に長時間浸漬すると、いったん膨潤し、その後、周りから次々と浸入してくるイオンによってカルボキシル基は徐々に中和され、次第にPAAとPVPとの水素結合は解離し、元の水溶性高分子にもどって溶解します。
そのため、Wispecsは生体内に放置すると、数日~一週間で完全に局所から消失します。
柔軟性
柔軟性
共有結合で橋架けした三次元の高分子ゲルは、成形、変形が困難であり、また、一度切断すると元の状態には戻りません。一方、Wispecsのような水素結合、疎水結合などの物理結合は、脱着、官能基の入れ替わりが容易であるため、一定以上のストレスをかけて大きく変形させても、また元の形状に戻ることができます。
そのため膨潤したWispecsのハイドロゲルは、注射針などを通して細長く変形させても、再び大きなかたまりに戻すことができます。また、注射針から射出したゲルは組織接着性を維持しており、皮膚、粘膜、漿膜などの組織に接着します。
Wispecsの展開
Wispecsの展開
膨潤性高分子複合体であるWispecsは、新しい生体組織接着剤、組織接着性止血材として新たな外科的治療手法の可能性を広げます。また、安全な接着、粘着剤として食品や化粧品分野への応用が、さらに生理活性物質の徐放担体など、DDS基材への応用が広く期待されるものです。